幻灯機(マジック・ランタン)ランプの光で絵を映す、映画より二百年早い投影機

幻灯機は、ランプの光で手描きのガラススライドをレンズ越しに壁へ拡大投影する装置。ヨーロッパでは「魔法のランタン(マジック・ランタン)」と呼ばれ、映画が生まれる二百年以上前から、幽霊ショーや子どもの部屋の壁に動く絵を映してきた。日本では「写し絵」の道具として独自進化し、装置は「風呂」という意外な名前で呼ばれた。
現在入手困難 — 製造は途絶え、骨董市場・博物館で出会える
写真: Auckland Museum, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(Ernest Plank製の子ども用幻灯機・1880年ごろ)
基本スペック
特徴
- ランプの光でガラス板の絵をレンズ越しに壁や幕へ拡大投影する。スライド映写機や映画のご先祖にあたる
- 箱+煙突+筒レンズが定番の姿。煙突が付くのは、光源がロウソクや油ランプで、熱と煤を逃がす必要があったから
- スライドは手描きの色ガラス。レバーや回転盤で絵が動く「仕掛けスライド」も作られた
- 19世紀後半にはブリキ製の子ども用幻灯機が量産され、当時もっとも人気のある光学玩具になった
- 日本では「写し絵」の道具として独自進化。桐製の軽い装置を演者が抱えて動き回り、スクリーンの裏から映した
誕生と歴史
(1803)

図: Athanasius Kircher, Public domain, via Wikimedia Commons(『大いなる光と影の術』1671年版の幻灯機図版。この図がキルヒャー発明説を広めた)
考案者のホイヘンスは、土星の環の発見や振り子時計の発明で知られる17世紀最大級の科学者。1659年のノートには、骸骨が自分の頭蓋骨を外してみせる連続スケッチが投影用の丸枠つきで残っている。ところが本人はこの発明に乗り気でなく、1662年の弟宛ての手紙では「くだらないもの」と呼び、幻灯機が自分の発明だと知られたら家名に傷が付くとまで案じていたと伝わる。映画へ続く技術の出発点を、発明者自身が恥じていたことになる。

図: Christiaan Huygens, Public domain, via Wikimedia Commons(1659年のノートに残る投影用スケッチ。骸骨が自分の頭蓋骨を外す)
18世紀末のパリでは、幻灯機を客から隠し、煙や紗幕に骸骨や亡霊を映して動かす見世物「ファンタスマゴリア」が大当たりした。装置ごと後ろへ下がれば亡霊がぐんぐん迫って見える。恐怖を売りにした見世物として1770〜1830年ごろヨーロッパ各地で流行し、英語の phantasmagoria(次々に移り変わる幻影)という単語になって今も残っている。

図: A. de Neuville または A. Jahandier, Public domain, via Wikimedia Commons(ロベルトソンのファンタスマゴリアを描いた1867年の版画。骸骨が宙を舞う)
江戸後期に伝わった幻灯機は、日本で「写し絵」という独自の芸能に化けた。装置は桐製で軽く作り替えられ、「風呂」と呼ばれた(蒸し風呂に形が似ていたためなど、名の由来は諸説ある)。スライドにあたるガラス板は「種板」。演者は風呂を抱えて和紙のスクリーンの裏を動き回り、複数の風呂の映像を重ねて、キャラクターが動き回る劇に仕立てた。享和3年(1803)の初演は、映画の上陸より百年近く早い。
しくみ
箱の中でロウソクや油ランプを灯す。熱と煤は上の煙突から逃がす。
手描きの色ガラススライドを、光源とレンズの間の溝に差し込む。
凸レンズで拡大した像を壁や幕に映す。スライドを横に送ったり、仕掛けを動かしたりして物語を進める。
写真: Alf van Beem, Public domain, via Wikimedia Commons(連続コマのスライド例「男と犬の物語」。横に送ると絵が切り替わる)
いろいろな幻灯機
実用の映写機というより、姿かたちを楽しむ道具でもあった。人形型から子ども用のセットまで、形はさまざまにある。
写真: Cooper Hewitt, Smithsonian Design Museum, Public domain, via Wikimedia Commons
写真: The Children’s Museum of Indianapolis, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
メモ
- 名前はラテン語の「laterna magica(魔法のランタン)」から。英語で magic lantern、日本語では「幻灯(幻燈)」。
- 1671年の図版の影響で、キルヒャーは長いあいだ「幻灯機の発明者」と誤り伝えられてきた。
- ファンタスマゴリア(phantasmagoria)は「次々と移り変わる幻影」を指す英単語として現代も使われている。
- 幻灯機と回転のぞき絵(フェナキストスコープ)の合体から、19世紀末に世界初の映写アニメーションが生まれた。
- 「江戸写し絵」の上演はいまも受け継がれており、京都の「おもちゃ映画ミュージアム」などでマジック・ランタンの実物展示も見られる。
入手について
幻灯機は現在製造されておらず、新品で買うことはできない。実物はヨーロッパのアンティーク市場や蚤の市に流通するほか、映像文化を扱う博物館の常設展示で出会える。手描きのガラススライド単体は骨董市場に比較的よく出るが、本体とセットで動く状態のものは少ない。
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