ディアボロ

ディアボロ「悪魔」と呼ばれた空中ごま、二度の世界的流行

ディアボロ(スウェーデン舞台芸術博物館蔵)

中国→欧州空中ごま1907年大流行

ディアボロは、2つの椀を軸でつないだ「空中のこま」。地面ではなく紐の上で回し、こすって加速し、空へ投げ上げて受け止める。原型は中国の伝統玩具「空竹(くうちく)」で、18世紀末にヨーロッパへ渡ると、回転音の甲高さから「悪魔(devil)」と呼ばれた。1906年にフランスの技師が「ディアボロ」と名付け直すと翌年から欧米で爆発的に流行し、絵画や大統領選の風刺画にまで描かれる社会現象になる。

写真: Mikael Bodner / スウェーデン舞台芸術博物館(Scenkonstmuseet)蔵・収蔵番号M1685, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

基本スペック

原型
中国の空竹(清代の呼称は空鐘・俗称「響葫蘆」)
欧州伝来
18世紀末(貿易経由でイギリスへ)
命名
1906年・グスターヴ・フィリパール(1861〜1933)
構造
椀2つ+中軸、紐を張った2本のスティックで操る
現在
ジャグリング定番・台湾では学校の民俗体育「扯鈴」
入手状態
現行(ジャグリング専門店・楽天)

特徴

  • 軸を地面に立てない「宙づりのこま」。スティック間の紐でこすって回転を与え、回転の勢い(ジャイロ効果)で姿勢が保たれる
  • 回転が乗れば投げ上げ・紐渡り・縄跳びくぐりなど技が広がる。高く投げて紐で受けるトスが基本技
  • 原型の空竹は椀に共鳴穴が開いており、回すとブゥンと低く唸る。この音が北京の正月の風物詩だった
  • 現代の競技用はゴム椀+ベアリング軸が主流。回転が長持ちし、2個・3個を同じ紐で回す技も成立する
アンリ・ルバスク「ディアボロ遊び」(1907年)
アンリ・ルバスク「ディアボロ遊び」(1907年・油彩・ゲント美術館蔵)。大流行の真っ只中、庭でディアボロに興じる子どもが同時代の画家の画題になった。
絵画: Henri Lebasque作, Public domain, via Wikimedia Commons

誕生と歴史

明〜清代
北京で空竹(空鐘)が正月の遊びとして定着。共鳴穴の唸りから「響葫蘆」の俗称で親しまれる
18世紀末
貿易経由でイギリスに渡る。回転時の甲高い音から「悪魔(devil)」と呼ばれたとされる
19世紀初頭
英仏で「二本棒の悪魔」として流行。以後19世紀を通じて流行と衰退を繰り返し、事故の多発から公共の場での禁止令が出た時期もある
1906年
フランス・ベルギー系の技師グスターヴ・フィリパールが椀を円錐形に改良し、「ディアボロ」の名を定める
1907〜08年
欧米で爆発的に流行。競技会が開かれ、絵画・写真・政治風刺の題材になる。流行は第一次世界大戦の頃までに沈静化
1990年代
高精度な製品と技法書の登場でヨーロッパのジャグリング界に復権。サーカスの本格的な演目として定着する
2006年
原型の「抖空竹」が中国の第一陣の国家級非物質文化遺産に登録される
現在
世界のジャグリング定番道具。台湾では「扯鈴」の名で学校の民俗体育種目になっている

中国の正月玩具が「悪魔」の名で海を渡り、100年後に技師の手で再発明されて世界を熱狂させた。名前と流行をめぐる枝を3本たどる。

悪魔ではなかった命名

「ディアボロ=悪魔」と説明されることが多いが、命名者フィリパール自身の由来はもう一段ひねってある。イタリア語の悪魔(diavolo)を連想させつつ、古代ギリシャ語の「diabállô(投げ渡す)」に綴りを寄せた言葉遊びで、「悪魔」と「投げ渡すもの」を一語に重ねた造語とされる。19世紀に英語で「devil on two sticks(二本棒の悪魔)」と呼ばれた前史があったからこそ通じる命名でもあった。なお同じ大道芸の道具「デビルスティック」は棒で棒を打つ別物で、名前の似た混同されやすい親戚になる。

ディアボロで遊ぶ女性(1812年・パリのモード誌)
パリのモード誌「コスチューム・パリジャン」1812年の図版。ディアボロの前身で遊ぶ装いが流行のスタイルとして紹介された。19世紀初頭の流行を伝える物証。
図版: 作者不詳(1812年), Public domain, via Wikimedia Commons
1907年、世界がディアボロを回した

フィリパールの改良版は1907年から翌年にかけて欧米を席巻した。パリでは記録競技が生まれ、報道写真には「1分間に88回」の技を披露する女性演者の姿が残る。画家ルバスクやその同時代人が庭でディアボロに興じる人々を描き、流行は大西洋を越えて、米誌パック(1907年12月11日号)はセオドア・ルーズベルトとウィリアム・タフトの政権継承を「指名の日までディアボロを回し続けられるか」という風刺画にした。おもちゃの名前が政治の比喩としてそのまま通じるほどの浸透ぶりで、この熱狂は第一次世界大戦の頃までに引いていく。

1分間に88回の記録を持つヴァンサン嬢(1907年)
「1分間にディアボロ88回」のヴァンサン嬢(1907年・パリ)。流行期には記録競技が報道の題材になった。
写真: Agence Rol, Public domain, via Wikimedia Commons(フランス国立図書館蔵)
パック誌のディアボロ風刺画(1907年)
米誌パック1907年12月11日号の風刺画。ルーズベルトとタフトが政局を「ディアボロ」として回す。
図版: Udo J. Keppler作, Public domain, via Wikimedia Commons(米議会図書館蔵)
本家・空竹のいま

原型の空竹は中国で現役の文化財になっている。竹製の椀に共鳴穴を開け、回すと唸るのが本来の姿で、清代には「響葫蘆」の俗称で正月の北京に鳴り響いた。回す遊び「抖空竹」は2006年、中国の第一陣の国家級非物質文化遺産に登録され、北京には空竹専門の博物館もある。台湾では「扯鈴(チャーリン)」の名で学校の民俗体育種目に採り入れられ、競技チームが国際的なジャグリング大会でも活動する。西洋化したディアボロと、音を鳴らす伝統の空竹が、同じ玩具の二つの現在形として並走している。

中国の空竹
本家の空竹。竹製の椀に共鳴穴が並び、回すと低く唸る。
写真: 灿烂的黎明, CC BY 2.5 CN, via Wikimedia Commons

「宙で回すこま」という発想の源流には、地面で回す本家のこまがある。回転が姿勢を保つ理屈は同じで、図鑑では別ページにまとめている。

こま(独楽)藤原京から回りつづけて千三百年、世界最古級の回転玩具ページを見る ▸
宙を飛ぶディアボロ
宙を飛ぶ現代のゴム椀ディアボロ。トスで投げ上げ、紐で受け止める。
写真: Einar Faanes, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
大道芸のディアボロ演技
大道芸のディアボロ演技。1990年代の復権以降、サーカス・大道芸の定番演目になった。
写真: Cokeshow, Public domain, via Wikimedia Commons

いまも買える

現行品はジャグリング用品として豊富に流通する。初心者は椀がゴム製のスターターセット(本体+スティック+替え紐)から入るのが定番で、ジャグリング専門店の解説動画付きセットが入口として手堅い。

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ディアボロ スターターセット
ジャグリング専門店ナランハのスターターセット(楽天)。解説動画付きで、はじめての1台の定番。

メモ

  • 英語圏では空竹系の玩具を「チャイニーズヨーヨー」とも呼ぶ。紐の上で回す点は同じだが、軸に紐を巻き取るヨーヨーとは仕組みが別物になる。
  • 空竹の共鳴穴は数が多いほど音が厚くなるとされ、穴の数を競う多穴の名品も作られた。
  • 北京の空竹博物館は胡同(フートン)の四合院にあり、製作技法の実演展示を行う。
  • 競技ジャグリングでは2個・3個のディアボロを1本の紐で同時に回す種目が上級の定番になっている。
  • 1990年代の復権を支えた技法書のひとつが「Diabolo Folies」で、以後サーカス学校の教程に組み込まれた。

購入先

ナランハのスターターセットは3,410円(2026年7月時点)。ジャグリング専門店の現行品が楽天で入手できる。

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