ロッキングホース王の玩具から子ども部屋の象徴へ、揺れる木馬の400年

ロッキングホースは、弓形の足に載った木彫りの馬。またがって揺らす乗用玩具で、出自は貴族の子の乗馬練習具になる。現存最古の一体は1610年頃の作で、のちの英国王チャールズ1世のものと伝わる。ヴィクトリア朝に黄金期を迎えて子ども部屋の象徴になり、灰色に斑を散らした「ダップルグレー」が定番色として定着した。サムネイルは英ダービシャーの貴族屋敷カルク・アビーに残るアンティークの一体。
写真: Thomas Quine, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons(カルク・アビー、英ダービシャー)
基本スペック
特徴
- 足元は2系統。三日月形の板で床を直接揺れる「弓形ロッカー」と、固定台の上で馬体だけが前後に振れる「スタンド式」
- 伝統的な工法は木彫りの馬体に石膏地(ジェッソ)を重ねて彩色し、本革の鞍・馬具と本物の馬毛のたてがみを付ける
- 大型の一体ものは子ども部屋の据え置き家具に近く、世代を超えて受け継がれ、修復して使い続ける文化がある
- またがって重心を前後に移す動きが乗馬の騎座の練習になるとされ、上流階級の育児道具として広まった
誕生と歴史
400年の間、形はほとんど変わらず、持ち主だけが王子から庶民の子へ替わっていった。枝を3本たどる。
現存最古とされる一体は、エルム材と軟材で組んだ素朴な弓形の木馬で、1610年頃の作。病弱だった幼少期のチャールズ1世(1600〜1649)が脚の鍛錬に使ったと伝わり、現在はロンドンの童年博物館(ヤングV&A)が収蔵する。装飾のない丸太に近い胴は、のちの華やかなヴィクトリア朝木馬の原型というより「馬の形をした運動器具」に近い。王室の育児道具から始まった系譜が、そのまま英国のロッキングホース文化の背骨になっている。
アンティークのロッキングホースは灰色の地に丸い斑を散らした「ダップルグレー(連銭芦毛)」が圧倒的に多い。定番化の由来としてよく語られるのが、リバプールの老舗メーカー、コリンソン社の逸話になる。1851年にヴィクトリア女王が同社を訪れた際にダップルグレーの一体を気に入り、以後同社はこの塗りだけを作り続けた——という伝承で、真偽の確かな一次記録は残っていないものの、女王の趣味が国民的な玩具の色を決めたという物語ごと愛されてきた。実際の馬でも芦毛の斑は見栄えの良い毛色とされ、白地に灰色の斑は彩色の工程でも映えたため、業界全体の標準になったと考えられている。
19世紀後半から20世紀初頭の子どもの肖像写真には、ロッキングホースが繰り返し登場する。長い露光時間の間じっとさせる台として都合がよく、裕福さの記号にもなったため、写真館の定番小道具だった。ヨーロッパ各地の公文書館に残る当時の写真がそれを物語る。ヴィクトリア朝の子ども部屋(ナーサリー)では、木馬はドールハウスと並ぶ二大定番で、「良い家庭の子ども時代」のイメージそのものとして広告や絵本にも描かれ続けた。
写真: 撮影者不詳 / ソグン・オ・フィヨーラネ県文書館(ノルウェー), No known copyright restrictions, via Wikimedia Commons
写真: Paul Stang / ソグン・オ・フィヨーラネ県文書館(ノルウェー), No known copyright restrictions, via Wikimedia Commons
同じ子ども部屋のもう一方の主については、別ページにまとめている。
ドールハウス最初の300年は大人のものだった、家一軒ぶんのミニチュアページを見る ▸
写真: Clem Rutter, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
いまも買える
現行の主流は幼児向けの小型木馬。木製の伝統的なシルエットのものが1万円前後から手に入る。英国では伝統工法の大型木馬を作る専門工房も現役で、受注制作と修復が続いている。
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メモ
- 棒馬の「ホビーホース」は近年、またがって走り障害を跳ぶ「ホビーホーシング」としてフィンランド発の競技になっている。
- 日本ではバネで揺れるスプリング遊具の馬が公園や商業施設の定番になり、「木馬」の語感を今に伝えている。
- ヴィクトリア朝の大型木馬は現在も骨董市場で取引され、専門の修復職人が塗りとたてがみを直して次代に渡す。
- 揺れの支点が床にある弓形ロッカーは大きく揺れるぶん場所を取り、走り出す事故も起きたため、スタンド式が「セーフティ(安全)」の名で売られた。
購入先
Bloomingvilleの木製木馬は17,160円(2026年7月時点)。現行の乗用玩具が楽天で入手できる。
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