ステレオスコープ(立体鏡)写真より先に生まれた、ヴィクトリア朝の3Dビューワー

ステレオスコープは、少しだけ視点をずらして撮った2枚1組の写真(ステレオカード)を、左右のレンズ越しにのぞいて立体視する装置。日本語では「立体鏡」。立体視の原理は写真の発明より前に発見されており、ヴィクトリア朝の欧米で「茶の間の3D」として大流行した。VRヘッドセットの直系のご先祖にあたる。
現在入手困難 — 製造は途絶え、骨董市場・博物館で出会える
写真: Davepape, CC0, via Wikimedia Commons(ホームズ型ステレオスコープの複製。木の台にステレオカードを差して使う)
基本スペック
特徴
- 右目と左目にわずかに違う写真を1枚ずつ見せると、脳が2枚を重ねて奥行きを復元する。両眼視差という、いまの3D映画やVRと同じ原理
- 立体視の原理そのものは、写真の公表(1839年)より前に手描きの図形で実証されていた
- カードは差し替え式。世界の名所・事件・喜劇を写したステレオカードが大量に売られ、居間にいながら世界旅行ができた
- 米国で標準になったホームズ型は、考案者があえて特許を取らなかったため安価に量産された
- リール式のビュー・マスター(1939年〜)、そして現代のVRヘッドセットへと、二眼立体視の系譜が続いている
誕生と歴史
6月21日
意外なことに、立体視の装置は写真より年上になる。ホイートストンが鏡式ステレオスコープを考案したのは1832年ごろで、ダゲレオタイプの公表より7年ほど早い。当時はまだ見せる写真がないので、実証に使ったのは手描きの幾何学図形だった。1839年に写真が生まれると「立体視のソフト」が一気に揃い、この装置は花開くことになる。ハードがソフトを待っていた、めずらしい発明といえる。

図: Popular Science Monthly 第21巻(1882), Public domain, via Wikimedia Commons(ホイートストンの鏡式。中央の鏡A・A'が左右の絵E・E'を別々の目へ映す)
携帯型に改良して流行の火を付けたブリュースターは、万華鏡の発明者と同じ人物。1849年にレンズ式の小型ステレオスコープを発明し、1851年のロンドン万博でヴィクトリア女王に称賛されると、ステレオスコープはヴィクトリア朝の居間の必需品へと駆け上がった。30年の時を置いて、二度も「のぞく玩具」の大流行を仕掛けたことになる。

図: Popular Science Monthly 第21巻(1882), Public domain, via Wikimedia Commons(ブリュースターの1849年型。ふた付きの箱に接眼レンズが2つ並ぶ)
米国で標準になったホームズ型の設計者オリバー・ウェンデル・ホームズは、ハーバード大学の医学教授にして人気随筆家という異色の人物。ステレオカードの熱心な愛好家で、1861年に軽くて安い手持ち型ビューワーを設計すると、あえて特許を取らずに公開した。おかげで各社が自由に量産し、ステレオスコープはアメリカの茶の間の定番になった。発明で儲けなかった人の名前が、いちばん広く残った。

画: Norman Rockwell, Public domain, via Wikimedia Commons(『サタデー・イブニング・ポスト』1922年1月14日号表紙。茶の間の定番だった時代の空気を伝える)
しくみ
人の左右の目の間隔ぶんだけ視点をずらして、同じ場面を2枚撮る。並べて刷ったものがステレオカード。
カードをビューワーに差し、左右のレンズをのぞく。仕切りとレンズの働きで、右目には右の写真だけ、左目には左の写真だけが見える。
脳が2枚のわずかな違い(視差)から奥行きを計算し、1つの立体像に合成する。写真の中に入り込んだような遠近感が生まれる。
いろいろなステレオカード
ソフトであるカードには、名所・報道からトリック写真まで、あらゆるジャンルがあった。
写真: Rijksmuseum所蔵, CC0, via Wikimedia Commons
写真: F. B. Johnston撮影・米国議会図書館所蔵, Public domain, via Wikimedia Commons
メモ
- ブリュースターは万華鏡の発明者でもある。この図鑑では万華鏡のページに続いて二度目の登場になる。
- 幽霊もののトリックカードは、幻灯機のファンタスマゴリア以来の「光学機器でお化けを見せる」伝統の続きでもある。
- 日本には幕末から明治にかけて伝わり、「立体鏡」「双眼写真」などと呼ばれた。
- 三鷹の森ジブリ美術館では、限定のステレオスコープと立体写真カードが作られたことがある。
- ホームズはステレオスコープについての随筆も残しており、「ホームズ型」の名前は設計者への敬意として定着した。
入手について
ステレオスコープは現在製造されておらず、新品で買うことはできない。ただしホームズ型は米国で桁違いに量産されたため、骨董市場では今も比較的よく見つかる部類で、ステレオカードとセットで流通している。博物館の写真史・映像史コーナーでも定番の展示品。リール式のビュー・マスターやスマホ用の簡易VRゴーグルなど、同じ原理の子孫は現行品で手に入る。
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