双六(すごろく)|天皇が禁令を出してから1300年、サイコロひとつの国民遊戯

双六(すごろく)天皇が禁令を出してから1300年、サイコロひとつの国民遊戯

「福は内、鬼は外」の豆まき絵双六(1840年ごろ)

飛鳥時代〜現代盤遊び正月の定番

双六は、サイコロの目で駒やコマ絵の上を進む盤遊び。日本最古の記録は689年、持統天皇が出した禁止令で、遊びの記録より禁令の方が先に残っているという珍しい出自を持つ。賭博で栄えて消えた「盤双六」と、極楽もお化けも東海道もマスに詰め込んだ「絵双六」の二本立てで、1300年遊ばれてきた。「振り出しに戻る」という日本語は、この遊びが残した置き土産になっている。

図: 作者不詳(1840年ごろ), Public domain, via Wikimedia Commons(「福は内、鬼は外」の豆まき回り双六。おもちゃ絵の彩色木版)

基本スペック

最古の記録
689年の禁止令(日本書紀)
系統
盤双六と絵双六の二本立て
盤双六
大陸伝来・バックギャモンの親戚
絵双六
室町後期の浄土双六が最古とされる
最盛期
江戸〜明治(正月の定番に)
入手状態
現行(復刻絵双六・正月玩具)

特徴

  • 「双六」は一つの遊びではなく二系統。盤と駒で競う盤双六と、絵のマスを進む絵双六に分かれる
  • 盤双六はサイコロ2個を使う大陸伝来の競走ゲームで、バックギャモンの親戚。賭博と結びついて何度も禁令を受けた
  • 絵双六は紙一枚あれば遊べる。テーマは極楽浄土から東海道、出世、お化けまで何でもあり
  • 振り出しと上がり、「◯マス戻る」の指示——いまのボードゲームの基本文法がここで完成した
  • 江戸〜明治には正月遊びの定番になり、少年雑誌の正月付録の顔になった

誕生と歴史

飛鳥時代
以前
盤双六が大陸から伝来する。インド起源の盤上競走ゲームが中国を経て日本に届いたとされる
685年
『日本書紀』に天武天皇が宮中で双六に興じた記録が残る
689年
12月
持統天皇が双六禁止令を出す。日本最古級の賭博禁令とされ、これが日本の双六の最古の記録になっている
8世紀
正倉院に聖武天皇遺愛と伝わる豪華な双六盤「木画紫檀双六局」が納められる
平安〜中世
盤双六は貴族から庶民まで広がり、賭博としてたびたび禁令を受ける。『源氏物語』や絵巻にも登場し、白河法皇は意のままにならぬものとして「賀茂川の水、双六の賽、山法師」を挙げたと伝わる
室町後期
仏教の言葉をマスに書いた「浄土双六」が遊ばれる。絵双六の最古の形とされる
元禄期
道中双六や芝居の野郎双六など、絵入りの双六が町人文化として花開く
江戸後期
出世双六や浮世絵師による豪華版、お化けが並ぶ化物双六まで登場。テーマの百花繚乱期になる
1811年
盤双六の遊び方を解説する『雙六独稽古』が刊行される。ルール本が必要になるほど、遊び方を知る人が減っていた
明治〜昭和
文明開化・富国強兵をテーマにした双六が現れ、国民教化の道具にもなる。大正には少年少女雑誌の新年号付録に必ず双六が付くほどの全盛期を迎え、いっぽう盤双六は姿を消していく
現代
正月玩具・復刻版として現行。すごろくの文法は人生ゲームからテレビゲームまで、あらゆる「マスを進む」遊びに受け継がれている
天皇が禁じ、天皇が愛した

双六の日本デビューは記録の上では散々で、689年の持統天皇の禁止令が最古の記録になっている。ところがその4年前、天武天皇自身が宮中で双六に興じた記録も『日本書紀』にある。さらに8世紀の正倉院には、聖武天皇の遺愛と伝わる紫檀の双六盤「木画紫檀双六局」が宝物として残る。禁じる側の宝物庫に、当代最高級の双六盤が納まっている。

賽は、権力に従わない

院政で絶大な権力を握った白河法皇が「意のままにならぬもの」として挙げたのが、賀茂川の水、双六の賽、山法師の三つ——『平家物語』が伝える「天下三不如意」で、氾濫する川と強訴する僧兵に、双六のサイコロが並んでいる。天下人にも賽の目だけは操れない、という言い回しの主役だった。『徒然草』第百十段には双六の名人の言葉も残る。「勝とうと打ってはならない。負けまいと打つべきだ」。運の遊びに残された、最古級の必勝訓になっている。

盤双六は、ルールごと消えた

サイコロ2個で15個の駒を進める盤双六は、バックギャモンと同じ祖先を持つ競走ゲーム。賭博と切り離せないまま1000年遊ばれたが、江戸時代に衰え、近代までにほぼ姿を消した。衰退の進み具合は本が物語る。1811年には遊び方の解説書『雙六独稽古』が出ており、ルール本を出さねばならないほど、打てる人が減っていた。それでも双六盤そのものは消えなかった。碁盤・将棋盤・双六盤の三点は「三面」と呼ばれ、大名家の姫君の婚礼調度に欠かせない道具として作られ続け、いまも雛道具のミニチュアに双六盤が残る。遊び方が絶えた後も、盤は花嫁道具として生き延びた。

マスに極楽、マスにお化け

紙の絵双六は、何でもマスにした。最古とされる浄土双六は仏の名を書いたマスを進む信仰の教材で、南無地獄に落ちれば大きく戻る。江戸に入ると東海道五十三次を旅する道中双六、役者の野郎双六、身分を駆け上がる出世双六が売れ、幕末にはお化けが並ぶ化物双六まで刷られた。出世双六には女性向けもあり、腰元から御殿女中へ勤め上がる出世や玉の輿がゴールに置かれた。読み書きと世間を教える教材と、正月の娯楽を兼ねた、一枚刷りのメディアだった。

化物飛廻双六(1850年ごろ)

図: 作者不詳(1850年ごろ), Public domain, via Wikimedia Commons(「大新板化物飛廻双六」。付喪神のお化けたちがマスに並ぶ)

遊び方(絵双六)

1

全員の駒を「振り出し」に置く。駒は碁石でもボタンでも何でもいい。

2

順番にサイコロを振り、出た目だけ進む。マスの指示(1回休み・◯マス戻る・振り出しに戻る)には絶対服従。

3

最初に「上がり」へ着いた人の勝ち。ぴったりの目でないと上がれないルールにすると、終盤がもつれる。

いまも買える

江戸の絵双六は、かるたの老舗などが復刻を続けている。東海道中膝栗毛の道中双六や、いろはのことわざ双六が現行で手に入り、正月の座敷遊びがそのまま再現できる。

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膝栗毛滑稽双六(奥野かるた店)
膝栗毛滑稽双六(奥野かるた店・現行)。弥次さん喜多さんの東海道を進む道中双六の直系。
いろはたとへ双六(奥野かるた店)
いろはたとへ双六(奥野かるた店・現行)。ことわざのマスを進む、教材双六の流れをくむ一枚。

メモ

  • 「振り出しに戻る」は双六から日常語になった慣用句。ゲームのマス指示が、そのまま日本語になった。
  • 双六の「双六」は、サイコロ2個がともに6を出す「重六」に由来するという説が知られる。
  • 正倉院の「木画紫檀双六局」は紫檀に象牙などを象嵌した最高級品。盤双六が宮廷の宝だった証拠になっている。
  • 江戸の絵双六は国立国会図書館がデジタル公開しており、化物双六や道中双六を原寸で眺められる。
  • 明治以降の絵双六は文明開化・富国強兵の教材にもなり、国民教化の道具として使われた時期がある。
  • 人生ゲームやマリオパーティなど、「サイコロでマスを進む」遊びはすべて絵双六の文法の子孫にあたる。

購入先

復刻の絵双六は1,500〜2,000円前後。紙一枚とサイコロ一つで、飛鳥時代から続く「進んで、戻されて、上がる」を正月の座敷に呼び戻せる。

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